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ふしゅう

俘囚

海野 十三

「新青年」1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,938 字 · 31 页

青空文庫

松永が帰って来た安心と、連日の疲労とが、お酒の力で和かに溶け合い、あたしを泥のように熟睡させたのだった。……

――翌朝、気のついたときは、もうすっかり明け放たれていた。よく睡ったものだ。あたしは全身的に、元気を恢復した。

「オヤ、――」

隣に並んで寝ていたと思った松永の姿が、ベッドの上にも、それから室内にも見えない。

庭でも散歩しているのじゃないかと思って、暫く待っていたけれど、一向彼の跫音はしなかった。

「もう出掛けたのかしら……」今日は休むといっていたのに、と思いながら卓子の上を見ると、そこに見慣れない四角い封筒が載っているのを発見した。あたしはハッと胸を衝かれたように感じた。

しかし手をのばして、その置き手紙を開くまでは、それほどまで大きい驚愕が隠されているとは気がつかなかった。ああ、あの置き手紙! それは松永の筆蹟に違いなかったけれど、その走り書きのペンの跡は地震計の針のように震え、やっと次のような文面を判読することが出来たほどだった。

「愛する魚子よ、――

僕は神に見捨てられてしまった。かけがえのない大きな幸福を、棒に振ってしまわなければならなくなった。