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ふしゅう

俘囚

海野 十三

「新青年」1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,938 字 · 31 页

青空文庫

「ねエ、すこし外へ出てみない!」

「うん。――」

あたしたちは、すこし飲みすぎたようだ。ステップが踉々と崩れて、ちっとも鮮かに極らない。松永の肩に首を載せている――というよりも、彼の逞しい頸に両手を廻して、シッカリ抱きついているのだった。火のように熱い自分の息が、彼の真赤な耳朶にぶつかっては、逆にあたしの頬を叩く。

ヒヤリとした空気が、襟首のあたりに触れた。気がついてみると、もう屋上に出ていた。あたりは真暗。――唯、足の下がキラキラ光っている。水が打ってあるらしい。

「さあ、ベンチだよ。お掛け……」

彼は、ぐにゃりとしているあたしの身体を、ベンチの背中に凭せかけた。ああ、冷い木の床。いい気持だ。あたしは頭をガクンとうしろに垂れた。なにやら足りないものが感ぜられる。あたしは口をパクパクと開けてみせた。

「なんだネ」と彼が云った。変な角度からその声が聞えた。

「逃げちゃいやーよ。……タバコ!」

「あ、タバコかい」

親切な彼は、火の点いた新しいやつを、あたしの唇の間に挟んでくれた。吸っては、吸う。美味しい。ほんとに、美味しい。

「おい、大丈夫かい」松永はいつの間にか、あたしの傍にピッタリと身体をつけていた。