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ふしゅう
俘囚
海野 十三
「新青年」1934(昭和9)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,938 字 · 31 页
魚子よ、僕はもう再び君の前に、姿を現わすことが出来なくなった。ああ、その訳は……?
魚子よ、君は用心しなければいけない。あの銀行の金庫を襲った不思議の犯人は、世にも恐ろしい奴だ。彼奴の真の目標は、ひょっとすると、此の僕にあったのではないかと考える。僕は……僕は今や真実を書き残して、愛する君に伝える。――僕は夜のうちに、あの隆々たる鼻と、キリリと引締っていた唇と(自分のものを褒めることを嗤わないで呉れ、これが本当に褒め納めなのだから)――僕はその鼻と唇とを失ってしまった。夜中に不図眼が醒めて、なんとなく変な気持なので、起き出したところ、僕は君の化粧台の鏡の中に、世にも醜い男の姿を発見したのだ! これ以上は、書くことを許して呉れ。
そして最後に一言祈る。君の身体の上に、僕の遭ったような危害の加えざらんことを。
松永哲夫」
この手紙を読み終って、あたしは悲歎に暮れた。なんという非道いことをする悪漢だろう。銀行の金を盗み、番人を殺した上に、松永の美しい顔面を惨たらしく破壊して逃げるとは!
一体、そんなことをする悪漢は、何奴だろうか。手紙の中には、犯人は松永を目標とする者だと思うと、書いてあった。