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しんぎについて

信義について

宮本 百合子

「東京大学新聞」1946(昭和21)年7月23日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,992 字 · 6 页

青空文庫

去る四月一日の『大学新聞』に逸見重雄氏が「野呂栄太郎の追憶」という長い文章を発表した。マルクス主義を深く理解している者としての筆致で、野呂栄太郎の伝記が細かに書かれ、最後は野呂栄太郎がスパイに売られて逮捕され、品川署の留置場で病死したことが語られている。「昭和八年十一月二十八日敵の摘発の毒牙にかかって遂に検挙され」当時既に肺結核を患っていた野呂は「警察における処遇に抗しかねて僅か二ヶ月に足らずして品川署で最後の呼吸をひきとった。数え年三十五歳であった。」

当時私の友達が偶然野呂さんのいた警察の留置場に入れられていた。そのひとは看護婦の心得があったので、自分で体の動かせなくなった野呂さんのために世話をしてあげた。

「どこへか運ばれてゆくとき留置場から自動車まで抱いて行ったんです。女のわたしが、軽々と抱き上げるほど小さくなってしまっていらしたのよ。抱き上げた途端はっとして、涙が出て、かくすのに本当に困ったの」そのひとは、そう話した。「自分も病気だったけれど、わたしは、本当に本当に何とも云えない気がした。私は死なないこと丈はたしかだったんですもの」これを話した人は、おそらく一生この光景を忘れることはないだろう。