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しゅぜんじものがたり

修禅寺物語

岡本 綺堂

「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页

青空文庫

その腹を分けた姉妹、おなじ胤とはいいながら、姉は母の血をうけて公家気質、妹は父の血をひいて職人気質、子の心がちがえば親の愛も違うて、母は姉贔屓、父は妹贔屓。思い思いに子どもの贔屓争いから、埒もない女夫喧嘩などしたこともあったよ。はははははは。

春彦 そう承われば桂どのが、日ごろ職人をいやしみ嫌い、世にきこえたる殿上人か弓取りならでは、夫に持たぬと誇らるるも、母御の血筋をつたえしため、血は争われぬものでござりまするな。

夜叉王 じゃによって、あれが何を言おうとも、滅多に腹は立てまいぞ。人を人とも思わず、気位高う生まれたは、母の子なれば是非がないのじゃ。

(暮の鐘きこゆ。奥より楓は燈台を持ちて出づ。)

春彦 おお、取り紛れて忘れていた。これから大仁の町まで行って、このあいだ誂えておいた鑿と小刀をうけ取って来ねばなるまいか。

かえで きょうはもう暮れました。いっそ明日にしなされては……。

春彦 いや、いや、職人には大事の道具じゃ。一刻も早う取り寄せておこうぞ。

夜叉王 おお、職人はその心がけがのうてはならぬ。更けぬ間に、ゆけ、行け。

春彦 夜とは申せど通いなれた路、一ほどに戻って来まする。