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にせけいじ

偽刑事

川田 功

「新青年」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

私の潔白さを立派に知らせて見せましょう。いくら探偵が商売だって、高が私立の探偵で居乍ら、何の権利がありますか」紅色の滲んだ眼を上げた。美しいが故に物凄い。

最早退引ならなくなった。如何に誠意を以て謝罪しても、此処まで出て了っては駄目なのは明かである。彼は自分の失敗を誤魔化す手段は只一つしかないと思った。

「愚図々々云わなくても、どうせ否でも連れて行って遣る。これを見ろッ。俺は警視庁の刑事だぞッ」彼は名刺を一枚取り出して女の方へ突き付けた。夫れには彼の姓名と、其脇に住所が記されてある許りで、勿論刑事とも警視庁とも書かれて居ない。

「刑事だって巡査だって、何もしない者に疑いを懸けたり名誉を傷けたりする権利があるもんですか」

女は既う泣声ではなかった。こう云い乍ら半※(「巾+白」、第4水準2-8-83)に伏せた眼を上げた。彼は此時、本能的とでも云った様に其名刺を引込めた。此時、彼女も彼も殆んど同時に、今や町を巡廻して来る一人の巡査を眼の前に見付け出した。

「あの、もし」彼女はこう云い乍ら巡査の方へ歩み寄るのであった。

風が街上の塵埃を小さな波に吹き上げて、彼等二人を浸し乍ら巡査の方へ走って消えた。