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びぜんてんいちぼう

備前天一坊

江見 水蔭

「現代大衆文学全集」平凡社、1928(昭和3)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,511 字 · 25 页

青空文庫

「えッ」

「他聞を憚る事じゃから、そのつもりで」

半田屋九兵衛、何んだか気味が悪くなって来た。御領主にも関係しているらしい一大事なんて、吉かれ凶かれそうした事件に掛り合っては、まかり間違えば実際首が飛ぶ。しかし又間違わずに運んだらそれは又どんな利徳が得られるか、それは分らぬ。とにかく聴くだけは聴いておけと。

「半田屋九兵衛、宿屋稼業は致して居りますれど、他聞を憚る一儀ならば、決して口外致しませぬ」

「好し。それでは申し聴かせるが……他に立聞き致す者は居るまいな」

「御覧の如く、未だどの部屋も空いて居ります。泊りの御客は夕方からで御座りまするで……」

「しからばここにて一大事を申し聴かすであろうが、先ず第一に、その方に預けて置く品がある。さァ、駒越氏、例のをこれへ」

色の黒い駒越という浪人が、早速そこへ投出したのは、皮の腹巻のまま、ズシンと響く小判百枚。

九兵衛は意外に驚いた。これでは懐中欠乏とは嘘であった。同じ嘘でも、有ると云って無いのと、無いと云ってあるのとでは、大変な相違。

「へえ――。こんなにお持合せで……」

「いや、未だ他に二三百両は所持致す。けれども、なかなかこの先の物入が大変と存ずるので……ま、とにかくその百両だけは預かって置け」