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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

「どうしてね」

「何や知らんけれど」

「おかしいな。しょっちゅう遇っているくせに。ボートに乗りに行かない。月がいいから」

「ええ。連れてって」

と彼女は少し元気づいた。二人はそれから浜へ出て、貸ボート屋から、ボートで海へ出た。

彼女は舵をとった。

月の港は美しかった。はろばろと涼風が吹いて来た。潮の向きに迷って、大分久しく漕いでから私はオールを流した。晴れた空には千光寺山が黒く影立ち、三重の塔もそれと知れた。

私は遇い難い鶴子の事を思っていた。

「金波銀波がきれいじゃがのう」

と少しはなれて行き違った天満船の、波のうねりを見てすみ子が言った。

私は苦笑した。こうした事ではすみ子は平凡な事きり言えないのだ。でも私は気にもしなかった。

「向島へあがって見やんせん?」

「あがって見ようか」

私はボートを岸につけた。岸には人影もなく、月見草が咲いて、荒れていた。材木の上に二人は腰かけた。虫が啼いていた。海藻の香がして不安であった。

「いつまで尾道へ居てん?」

「秋からは三次へ帰らねばならんでしょう」

「へたらもう逢えやせんの?」

「近いから幾らでも来られますよ」

「帰しともなや」