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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

私の母は牛のような、本能的な母親だった。無学であったし、新しいものに応変して行くことが出来なかったが、家の習慣をよく守り、勤勉で自分の享楽を思わず、しきたりというものに保護されて、過ちなく日を送っていた。よい風習というものには保護作用があるのだ。

私が十一の時だった。

「お母さん、山王さんまで遠足に行くから弁当をこさえて下さい」

と言うと母はサッと涙ぐんで、

「今日だけは家にいておくれ。お豊姉さんが大変悪いからね」

と言った。私は胸を衝かれて泣き顔になった。

豊姉は心臓瓣膜閉鎖不全でよく目まいがし、ヒステリーもあった。意識不明の状態に陥って、痙攣が来、癪のような発作があった。

カン水と言って頭のまん中に冷水を注いで冷やしたりしていた。

豊姉は夢中の状態で囈言を言った。まわりには皆がとり巻いていた。

「山丈のおかみが咽喉をしめる」

と口走った。まわりのものが面を見まわして動揺した。山丈という茶屋の芸者に義兄が熱くなったのを嫉妬したのだ。幼な心に私はショックを受けた。

豊姉の写真函を探すと時々芸者の写真が出た。眼が針で突き貫かれたりしていた。

私の家の裏の畑の傍にお茶屋があって芸者が出入りしていた。