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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
過酷な自己犠牲や、没我的美的陶酔や、世相的卑近感や、又倫常の線を逸する心中もののようなものがあっても、全体としては人間の、人間らしき感情の操練として、いささかも頽廃、麻痺、歪曲したところがなく、まっすぐな、健やかな、浪曼的精神の基調に立っているものだ。この浪曼的精神の健康児として育てられたことは私の幸福であった。もとより大く望めば際限はない。幼ない頃からの早期教育として、もっと高い音楽的教養、たとえばバッハの音楽を聞かされ、ラテン語や、フランス語を教わり、法華経や、論語や、聖書を習い、ゲーテや、ジイドや、ピカソについて聞いたり、見たりするという風だったら、今頃はどんなになっていたろう、などと思われない事はない。しかし田舎の商家の、平凡な教養を受けた私の父母と、その家庭としては、許されるかぎりのよい教養を与えてくれたのである。そして浄瑠璃は無学な父の心の糧であったのだ。父はこの中から何でも引き出して、生活と心ばえとの準拠としたのだ。実に考え方では、父は子たちに直接には教えかねることを浄瑠璃を通して教えたのだ。
世相のこと、男女のこと、義理人情のこと、英雄主義のこと、もののあわれのこと、――教訓的なポーズを好まぬ、順直な父としてはそれが一番ふさわしかった。