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いりむこじゅうまんりょう

入婿十万両

山本 周五郎

「婦人倶樂部」大日本雄辯會講談社 、1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,650 字 · 22 页

青空文庫

「とにかくもう少々お待ちを願います」

浅二郎はそう答えて引退るより仕方がなかった。

恩師寒泉は別離に臨んで、

「これはお主でなければできぬ仕事だ、もし行ってみて妙策がなかったなら、京極家の家譜を調べるがよい、必ず悟る事があろう」

と謎のような言葉を餞別にしたのである。

浅二郎は多度津へ来て、藩政の一般にざっと眼を通しただけで、とても急場を凌ぐ策など建てられる筈がないという事を知った。――そうすると恩師の言葉に頼るより外に法はないから、「京極家家譜」の閲覧を願い出た。

「何の為に家譜を見るのか」

浅二郎には謎だった、「果してお言葉通りを信じてよいものか――?」

そういう迷いも出た。

しかし、現に必至の期日を控えて他に策がないのである。浅二郎は毎日登城するとすぐに書庫へ入って、食事の暇も惜しく家譜の繙読を続けるのであった。

靱負の督促は日毎に烈しく、

「どうだ妙案が建ったか」

「今日こそ待兼ねたがどうした」

「もう幾十日しかないぞ」

と急きに急いてくるし、日は恐ろしいほど迅くたっていく。浅二郎はようやく不安になってきた、――もう一度先生にたしかめた方がよくはないか、家譜を見ろと仰有ったのは、何か別の謎ではなかったのか。