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いりむこじゅうまんりょう

入婿十万両

山本 周五郎

「婦人倶樂部」大日本雄辯會講談社 、1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,650 字 · 22 页

青空文庫

五

「多分うまく参ろうかと存じます。就きましては、当分のあいだ御城内に留らねばならぬかと存じまするゆえ、さよう御承知置きください」

「おおいいとも、大事の際じゃ、留守は源兵衛が引受けるで充分にやってこい」

「忝のうございます」

不由は悲しげに、脇から浅二郎の横顔を覓めていた。

五

登城した浅二郎は、その日から勘定方詰間へ籠り、布目玄蕃を始め役向の者と共に、藩政に関するあらゆる書類を集めて改革案の起草に取掛った。それは驚くべき努力であった、玄蕃や定役の多くは定刻に登城し、また退出するのだが、浅二郎だけは詰間から一歩も外へ出ず、朝は払暁から夜は三更に及ぶまで、筆紙を手から放さず働きつづけた。

こうした日がおよそ十余日も過ぎた、十二月十日の朝である、宿直の番士がやってきて、

「矢走氏、かような書面を持った使の者が、河面口御門へ参った由でござる」

と伝えた、浅二郎は書面を受取って披読すると、即座に立って、

「御苦労でござる、拙者が参りましょう」

と出ていった。

河面口御門へ行った浅二郎は、半刻ほどして戻ってくると如何にも晴れ晴れとした顔で、登城したばかりの厨川靱負に面会を求めた。