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にゅうがくしけんぜんご

入学試験前後

宮本 百合子

「婦人界」1922(大正11)年3月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,225 字 · 5 页

青空文庫

大判の頁、一枚ときめ、椽側で日向ぼっこをしながらちょうど時候にすればいま時分、とつとつと書きつめるのである。

一枚、一枚を使うインクの色をちがえ、バラバラと指で翻し、さも学者らしく一杯ならんだ文字を見ると、自分は楽しさで、来ようとする試験の怖さも忘れた。今でも頭にあることは、書く字の要点に非常な注意と、成人の心持とを見通したことだ。例えば、巳という字と己という字との違い、これなどは紛れやすいから、きっとこんなのを試験に出すのだろう、よく覚えて置こう、と思うのである。

そんなことを考えながらも、若しあの学校が駄目なら、外に何処もあてにするというようなことはまるで思っても見なかった。

両親が定め、手続をして呉れ、「きっと入れるから、大丈夫、しっかりおし」という母の言葉を、殆ど冒険的に信じていたのである。

いよいよ入学試験の日が来た。三月三日でお雛祭の日だのに雨まじりの小雪さえ降り、寒い陰気な日であった。何でも、まだ電気の燈いている時分に起き、厚い着物に蝶模様の羽織を着、前夜から揃えてあった鉛筆や定木、半紙の入った包みを持って出かけた。俥に乗り、前ばかりを見つめて大学の横から、順天堂の近くへ連れられて行ったのである。