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はっけんでんだんよ
八犬伝談余
内田 魯庵
「南総里見八犬伝 下」日本名著全集刊行会、1928(昭和3)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,945 字 · 43 页
たものらしい。円塚山はこの街道筋にあるので、今の燕楽軒から白十字・パラダイス・鉢の木が軒を並べるあたりが道節の寂寞道人肩柳や浜路の史跡である。小説の史跡を論ずるのは極楽の名所図会や竜宮の案内記を書くようなものだが、現にお里の釣瓶鮨のあとも今なお連綿として残り、樋口の十郎兼光の逆櫓の松も栄え、壺阪では先年沢市の何百年遠忌だかを営んだ。『八犬伝』の史蹟も石に勒して建てられる時があるかも知れない。(市川附近や安房の富山には『八犬伝』の遺跡と伝えられる処が既にあるという咄だ。)
が、そういう空想史蹟は暫く措いて、単なる地理的興味から見て頗る味わうべきものがしばしばある。小文吾が荒猪を踏み殺したは鳥越であるが、鳥越は私が物心覚えてからかなり人家の密集した町である。徳川以前、足利の末辺にもせよ、近くに山もないに野猪が飛び出すか知らん。(もっとも、『十方庵遊歴雑記』に向嶋の弘福寺が境内寂寞としてただ野猿の声を聞くという記事があるが、奥山の猿芝居の猿の声ではなさそうだ。)また、この鳥越から海が見えるという記事がある。湯嶋の高台からは海が見えるから、人家まばらに草茫々と目に遮るものもないその頃の鳥越からは海が見えたかも知れぬが、ちょっと異な感じがする。