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いちょう

公孫樹

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,764 字 · 20 页

青空文庫

然し僕のその想像は、恐らく事実に近いものだと思うのだ。

僕は自分の想像に固執していった。そしていつしか頭の中では、それが動かし難い事実となってしまった。とは云え誰からもはっきり聞いたのではない。まさか母に尋ねるわけにもゆかないし、他に事実を知っていそうな者はいない。その上僕は、自分の異母兄たる公樹のことを考えていると、妙に憂欝な気分にとざされていった。何かしら漠然と不安なのだ。事実を明るみに曝け出すよりは、一人で空想に耽ってる方が気安かった。ただ一度、「お千代さん」のことをそれとなく母に尋ねてみたが、昔祖母が世話になった人だというきりで、母は本当に何も知らないらしく、今は音信不通で居所も分らないと、顔色一つ動かさずに答えたのだった。

そして僕は、他に探る手掛もない異母兄のことや、父のロマンスのことなどを、いろいろ想像しながら、父があの公孫樹に、足の皮とそれから一時小便とをやっていたことに思い及んで、何とも云えない暗い気分に落ち込んでいった。

固よりそれは、父がしそうな事柄ではあった。どこか呑気で脱俗的な而も実利的な父の性格としては、由緒ある公孫樹に足の皮を与えるくらいは何でもないことで、場合によっては小便を与えるのも不思議ではなかった。