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いちょう

公孫樹

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,764 字 · 20 页

青空文庫

砂利から立つ湯気と、アスファルトの濛気と、釜の下から出て来る火気とに、私は少し辟易して、四五歩しざりながら、あたりを振返ってみた。沈みかけた四月末の太陽が、淡い光を投げてる中に、大講堂の廃墟の壁がくっきりと聳えていて、その前に公孫樹の新緑が萠え出していた。十二年の大地震の折、大講堂と法文科の建物との猛火に挾まれながら、不思議に生き残って、春が来ればやはり可愛いい小さな葉を出してる公孫樹だった。それが大講堂の焼け残りの壁を背景に、四五本ずらりと並んでいた。

「ねえ君、」と私は吉住を呼びかけた、「砂利の煮えてるのなんかより、この木を見てみ給い。この方がよっぽど面白いじゃないか。両方から火に挾まれても、不思議に命が助かって、あんなに芽を出してるところは……廃墟を背にして芽を出してるところは、一寸いいじゃないか。」

吉住はくるりと向き返った。

「ああ、公孫樹か。」そして一寸間を置いた。「そいつあ火に強いんだ。」

「いくら強いったって……。」

「そして不思議な木なんだ。」

「不思議な木だって、公孫樹が。」

「不思議だというのは……。」

「何だい。」

「いや、僕だけにかも知れないが……兎に角変な木だよ。