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ろくがつ

六月

相馬 泰三

「早稲田文学」1913(大正2)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页

青空文庫

彼は思わず、熱心に

「一体どうしたというんです?」と問い寄った。

「呆れ返った奴だ、あれがちっとも覚えがなけりゃ、あのまま死んだって覚えがないというものだ。――川へ落ち込んだのだ。一旦沈んでしばらく姿が見えなくなってしまってな、――署員総出という騒ぎだ」

「全く危険であった」と、そばにいた他の一人の警官が言った。

「野郎、寒がってぶるぶる慄えていやがる!」

こんなことを言って、彼の丸裸を指差して笑っている連中もあった。

彼の頭にはそれらしい記憶は何も浮んで来なかった。ただ夢のようだと思うほかはなかった。

燈のない暗い廊下みたいなところを通って、とある部屋の中へ押し入れられた。暗闇の中を手探りすると、畳の敷いてない床に、荒らい毛の毛布があったので、それにくるまって横になった。

横になってしばらくすると、鼻の穴の奥が痛がゆいような感じがした。それに続いて咽が何かにむせるような、それから何物かに強く口を塞がれて、窒息しそうな堪えがたい苦しみの記憶が、ふと、全く思いがけなく彼に蘇生って来た。と、彼の頭の中に、ある慄え上るような心持ちが電光のように閃いた。しかし彼はひどく疲れていたので、いつかうとうとと深い睡眠に陥ってしまった。