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ろくがつ
六月
相馬 泰三
「早稲田文学」1913(大正2)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页
自分はふらふらと立ち上ってその妓の背後から肩を両手で抱くようにして、嫌がるのを無理に頬辺へ接吻してやった。……それから誰か二三人と隅の方へ陣取って大いに飲んだ、その時、誰だかが、何のことだか、「……それは世界の大いなる皮肉で、それは何ものかに対しての大いなる攻撃であらねばならぬ」こんなことを叫んでいたのを覚えている。……そしてそれから、……
どうしてもこの先がはっきりしない。
部屋を二つほど隔てたと思われるあたりに時計が四時を報じた。どこか板敷きの床の上をコツコツと歩く靴の音がして、やがて奥の方で、「△△君、○○君、交代!」という声がした。しばらくするとまた前と同じような靴の音がコツコツとして、そのあとはまた以前と同じような寂寞に帰った。
今までつい気がつかずにいたが、家のすぐそとに何やらさらさらと水の流れる音がしている。耳を澄ますと、時々舟が通るのかひたひたという波の音も聞えてくる。
彼は起き上って一方の壁に身を寄せて、今さらのようにつくづくあたりを見廻した。もう、夜がすっかり明けていた。ふと見ると、自分のいるすぐ右手の壁の上に、爪で書いたらしい「願放免」