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きかくとさんぞくととのさま

其角と山賊と殿様

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,948 字 · 10 页

青空文庫

烈火の篝に形相変じて、今にも悪鬼に化するかとばかり、そのままの地獄図絵だった。

「はははは、よいざまじゃな」

頭領はあざみ笑いながら盃をあげた。

「裸の男、どうだ、よい心地であろうが、貴様もすぐにあのようにしてやる、ま酒でも参るが宜いぞ」

手下共は女を急きたてて、其角の前へ酒と山海の珍味を並べ、厭がるのを無理強いにぐんぐん呑ませた。

「ところで裸坊主、我らの慈悲として、気に入った芸をして見せる者は、生贄の責を免じてやる定だが、貴様何か芸はできるか」

「はい」

其角は顫えながら、

「私は俳諧師でございますから、俳諧をよむことはできますが、外に芸と申しまして別に何も――」

「俳諧――? 俳諧とは何じゃ」

「深く説明致しますとむつかしゅうございますが、発句の例をとって申しますと、十七字の中へ森羅万象を詠みこみまするもので、和歌よりやや狂体に転じた一種の――」

「面白い、それをひとつやって見ろ、気に入ったら生贄を免じてやるぞ」

「はい」

其角は溺れんとして藁を掴んだ気持、膝を正して句案にかかった。しかし先刻から顛倒している心気は頓に鎮まらず、なかなか名句が浮んでこなかった。