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かんこんそうさいはかせ

冠婚葬祭博士

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,762 字 · 30 页

青空文庫

「大変なものですな」

「社長が一個人として、『これは詫証文だ』と言って、僕にくれたのです。これで僕は満足します。金そのものゝ為めじゃありません。この小切手は僕が無能で冠婚葬祭博士を勤めたのでないという証明書になります」

「…………」

「人の一生は妙なものですよ。今更繰り言になりますが、好いが悪くて、悪いが好いという廻り合せもあります。当り前なら、僕はもう疾うに重役になっているんです。八田君も湯浅君も一緒に会社に入ったんですから」

「はゝあ」

「三人の中で帝大出の僕が一番社長の気に入りました。八田君も湯浅君も私立大学です。社長は当時専務でした。抜擢されて秘書になったのが普通なら出世の糸口でしょうが、僕の場合はその好いが悪いのです。考えて見ると、勉強をし過ぎました。社長のお供をして旅行に出ても、事を欠かさないようにと思って、洋服を着たまゝ寝たものです。社長が鈴を鳴らせば、直ぐ起きて行って、そのまゝ用が足せます」

「成程」

「気に入る筈です。団々と仰有って、僕でなければ、夜も明けず、日も暮れません。その中に社長の母堂が亡くなりました。僕が葬式の世話を焼きました。これが秩序整然、一糸乱れずという具合に行ったものですから、葬式は団に限るということになりました。