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こおるアラベスク
凍るアラベスク
妹尾 アキ夫
「新青年」博文館、1928(昭和3)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,278 字 · 20 页
暮松は自分の家から昼間だけ事務室に通勤しているのだ。
三人は先ず事務室から始めて、浴室、台所、女中部屋、工場、銀三の部屋と順々に見て廻った。
広い工場には、直径一間もある車輪が音も立てずに廻転し、長いベルトが凄じい勢いで滑って、数人の男が脇目もふらず働いていた。
しかし警部に取って最も興味があったのは、銀三の部屋であった。大体、この建物は、郊外の工場なぞによくある、粗末な南京下見のあまり立派でない建物ではあるが、ただ銀三の部屋のみは、まるで別世界のごとく立派に飾られ、広さは僅か十五六畳だが、壁と天井には一面に緑色の勝った品のいい壁紙を貼り、その壁の一方の、押入の如く窪んだ処に、厚い織物のカーテンをかけてその中に贅沢なベッドを作り、床には歩いても音のせぬ厚い緑色の絨氈を敷きつめ、部屋全体の装飾が濃い黒っぽい緑色に統一されていて、北に向いた二つの窓の窓掛さえ同じ色なので、昼でも部屋の中が薄暗く、陰鬱に感じられるのであった。家具は両袖のある大型のデスク、気持よさそなスプリングの好い長椅子と二つの安楽椅子、洋箪笥と化粧台と円卓子と本柵、ちょっと寝室と居間とを一緒にしたような便利な部屋で、角の方には瓦斯ストーブの設備さえ出来ている。