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とううん

凍雲

矢田 津世子

「婦人文芸」1934(昭和9)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,121 字 · 29 页

青空文庫

途方にくれているようにみえた。

「何してる!」

仙太は怒鳴った。そして、腰から笹に掩われて、凝っと立ち停っていた。

松林が、ごう、と鳴った。雲が威嚇するように頭の上にひろがってきた。鴉が麓のほうへ急ぎ飛んだ。

犬は尻尾を垂れて藪から道へ出た。身ぶるいをしながら、とっとと坂を駈け登って行った。

仙太は朝日を啣えたまま、未だ同じところに立って考えに沈んでいた。

「黒じゃねえか、吃驚させるない」

松林の向うで声がした。犬と一緒に古川町の先生が降りて来た。ざくざく、と石ころが鳴った。

「仙太さん、獲物あったかい?」

仙太は黙って、辞儀をした。

「何撃ちにきた?」

「わしですか。何撃ちにきたか分らねえです」

「こんな天気だからな、蕈こ取りにも会わねえして……。お父さん、家かい?」

先生は手の甲で赤髭を撫でた。

「相変らずでして。寝てる間も起きてる間も、算盤玉こばかりはじいていますて」

仙太の父親は、油商売のほかに、高利で金を貸付けていた。

「算盤玉こもええが、お前のことにも困ったもんだな」

仙太は藪を出て、先生のあとから道を下って行った。黒は早足で二三間さきを急いでいた。