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はつつぼみ

初蕾

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页

青空文庫

老人といっても主のほうは五十五六、夫人は五十歳ほどだろう、静かな人柄で、召使も置かず、ほとんど訪ねて来る人もなく、ひっそりとつつましやかに暮していた。……村人たちは知る由もないが、二人は梶井良左衛門と妻のはま女である。半之助が森田久馬を斬って、そのままゆくえ知れずになった。幸い久馬は死なずに済んだが、良左衛門は責を負って致仕した。それまでには及ぶまいと云われたけれど、我子のゆくえ知れずということが面目にかかわり、どうしても致仕せざるを得なかったのだ。彼は貯蓄も家財もきちんと整理し、すべてをきれいに返上して城下を立退いた、その始末の潔ぎよさが藩侯にきこえて、「終身十五人扶持を遣わす」こと、「領内に永住する」ことの二つのお沙汰があった、特別の沙汰だったのでお受けをしたが、それさえ彼には心ぐるしいようだった。……家がみつからないので、すすめられるままに島屋喜右衛門の隠居所を借りたが、これも旧職を利用するようで、おちつくまでにはずいぶん気を病んだものであった。

夏を送り秋を迎えたが、明け昏れの無為にはなかなか慣れなかった。庭はずれに菜園を作り、二人で蔬菜を育てたり、思いついては庭前の松の枝を揃えたりする他に、なにをこれという仕事もなく気持も動かない。