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はつつぼみ

初蕾

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页

青空文庫

「それもよくわかるんですけれど、でもそれではもし……」

お民はじっと客の眼を見まもった。

「もしあたしに思う人があるとしたら、それでも構わないと仰しゃいますか」

「おまえに思う人だって」

「もし仮にそんな人がいて、時どき逢ったりなんかするとしたら、幾ら貴方だってああそうかで済みはなさらないでしょう」

客はお民の眼をしずかに見返した。それはなにか意味をかよわせるような視線だった、お民はわれ知らず眼を伏せた。

「私が身の始末をしろと云うのはそれなんだ、好いた好かれたとかいうことは花の散らないうちの話で、添い遂げられる縁ならいいが、さもなければやがて悲しい別れをするか人にうしろ指をさされるようなことになりやすい、そんなことにしたくないから相談をするんだ、世間を知らないわけじゃあないだろう、よく考えてみて、気持がきまったら返辞を聞かせておくれ、また二三日うちに来るからな」

お民はなにも云えずに眼を伏せていた。この人は知っているのかもしれない、ふとそういう気がしたからである。もしそうなら、梶井さまの親御たちと話しあいのうえで、こんな相談をもちかけたのではないだろうか、半之助さまと自分との仲をさくために……そう考えると、それがもう紛れのない事実のように思え、お民はひそかにせせら笑いたい気持になった。