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はつつぼみ

初蕾

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页

青空文庫

七

「そうも思うが、門へ捨てられたのもなにかの縁であろうし」

と、良左衛門はふとまじめな調子でこういった。

「それに爺婆さし向いの山家ぐらしも退屈なものだからな」

「お孫さま代りでございますか」

喜右衛門はわざとのように渋い顔をした。

「うまくまいればようございますがな」

七

喜右衛門の伴れて来た女は名をうめといった。伊勢のくに松坂の者で、いちど嫁して子を生んだが、婚家との折合いがわるく、生れて五カ月の乳呑み児を置いて離縁したのだという、小さな商人の家に生れて年は十九、幼いじぶん父母に死別して、苦しい育ち方をしたそうだが、そのためだろう、見かけは年より若く娘むすめしているのに、起ち居や言葉つきはずっと世慣れて、少しはすわに思えるほどぱきぱきとしていた。

「初めに云っておきましょう」

はま女はまずこう云った。

「お乳をやるときは清らかな正しい心で、姿勢もきちんとするようにして下さい、乳をやる者の気持や心がまえは、乳といっしょにみな児へ伝わるものですからね、小太郎はさむらいの子ですから、それだけは忘れずに守って頂きますよ」

うめは眼を伏せてうなずいた。――よくわからないのだな、はま女はそう気づき、当分のうち自分で教えなければなるまいと思った。