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はつつぼみ

初蕾

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页

青空文庫

八

八

約束の期限を延ばして呉れぬか、そう云われたときうめはよろこんで承知した。

「島屋の御隠居さまは御承知でございましょうか」

「喜右衛門どのには話しました」

「それではお世話になりとうございます」

こう云いながら、うめはそのときなにゆえともなく、肩をすぼめるような身振をした。……誕生までという約束は、梶井家に対してと同様、彼女が自分のためにかたく心にきめたものであった、それ以上はいけない、児に愛をもってしまっては身がひけなくなる、深い愛情のうまれないうちに出よう、そう決心をしていたのだ。然し惧れていたその愛情はすでにぬきさしならぬ激しさで、彼女を小太郎にむすびつけた、それだけではない、今では小太郎をとおして梶井夫婦にまで、その愛情はつながってしまったのである。

「こんな積りではなかった」

うめはそのことに気づくたびに慄然とした。

「これでは半さまにも申し訳がない、どうにか考えなくては」

うめがお民であることは念を押すまでもないだろう、これまでの事はすべて喜右衛門に相談のうえでやった。初めは生れたらどこかへ遣る積りだったが、半之助という父があり、梶井家というものがある以上、いちおうは縁をたぐってみるのが本当だ、もし縁のないものなら仕方がないから、そういうことで門ぐちへ捨てたのである。