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わかれのじ
別れの辞
豊島 与志雄
「中央公論」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页
さっきね、とても逢いたがってた人が……。」
「ばか、何を云ってるんだ、ばかな……。」
ほんとに怒ったらしい押っ被せる調子で、宮崎は叫んだが、同時に、真赤になった。
島村は平然と席に就いた。
「暫くぶりだね。」と長尾が云った。「この頃、あんまり飲まないのかい。」
「うむ、出来るだけ飲まないことにしてるんだが……。」
「そうでもないでしょう、島村さん。」と、おけいが銚子をもってわりこんできた。「ちっとうちへもいらっしゃいよ。あんまりよそを歩き廻らないで……。決して、くっついたり、殴られたりするようなことは、しませんから……。」
「なんです、それは……。」
「それ、井上さんと、銀座の何とかいうカフェーで……あれほんとでしょう。こうなんですよ……。」彼女は皆の方を向いた。「女給たちを集めて、飲んでいらしたんですって、井上さんと二人で。そしてるうちに、女給の美しいのが一人、もてたのねえ、やたらに島村さんにくっついて、肩にもたれたり、膝にのっかったり、ええ勝手にしろってところよ、あんまりべたべたやるもんだから、島村さん、すっかり怒っちゃって、その女の頬辺を殴ったとか殴らないとか、とにかく大変な剣幕でしたって。