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わかれのじ
別れの辞
豊島 与志雄
「中央公論」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页
あの時と、それからも一度……それくらい、あたしだって外にいろいろ用があるんじゃありませんか。でも、二度あれば、それでもう沢山。毎度といってもいいでしょう。そりゃあ、変なことはないにしても、困るじゃありませんか。何とか、意見をしてやって下さいません。清子の方はだめ、とてもあたしの云うことなんか聞くものですか。ほんとに困ってるんですよ。何もかも調子が狂ってしまったようで、あたし、くさくさして……。彼女は眉間に深い皺を寄せた。だが、彼女が清子に意見したというのも怪しいものだった。それはとにかく、頼まれた以上、宮崎に何とか注意してやりたかったが、そんなこと、へまに云い出そうものなら、却って結果は悪くなる。私は当惑して、長尾か大西に頼んでは……と云ってみた。おけいは眉根の皺をぐっと深くして、むきになった。そんならいい、あなたには何にも頼みません……。私は彼女の怒った顔を初めて見た。額が狭くて、打震えてる上唇の上に、うすい毛が生えそうだった。
幸にも、私はその嫌な役目をのがれることが出来た。その頃、私達はたしかに少し荒れていた。その晩も、長尾と私と野口――この野口というのは、放送局に勤めてる男だが、酔うと相撲をとりたくなるという妙な癖があり、ふだんは変にお高く澄しこんでる見栄坊だった――三人で、一騒ぎして、芸者を二