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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

済生会病院へ行くことになった。特高が、フラフラの目を瞑っている今野を小脇に引っかたげて留置場から出て行った。

(附記。後で分ったことであるがそこの済生会病院では軍医の玉子が治療をした。そんな命がけの手術をするのに、そこを切れ、あすこを切れと、指図されるような不熟練者が執刀した。手術後、ガーゼのつめかえの方法をいい加減にしたので、膿汁が切開したところから出きらず、内部へ内部へと病毒が侵入して、病勢は退院後悪化した。同志今野が、どうも頭は痛くなって来たし変だと思い、苦痛を訴えたら、済生会の軍医は、却ってこれまで一日おきに通っていたのに、もう大分いいから四五日おきに来いと云った。どういうことかと思っているとそれから三日目に極めて悪性の乳嘴突起炎を起し、脳膜炎を併発し、今度は慶応病院に入院、大手術をした。危篤状態で一ヵ月経ち、命だけをやっととりとめた。)

二

「――ソラ見えるだろうが」

「見えやしませんよ」

桜のことを云っているのである。警察署の裏、北向きの留置場では花時でも薄暗く、演武場の竹刀の音、すぐ横の石炭置場の奥にある犬小舎でキャン、キャンけたたましく啼き立てる野犬の声などがする。