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こくこく
刻々
宮本 百合子
「中央公論」1951(昭和26)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页
白っぽい浴衣の胸元、前と、血がほとばしってついているのであった。
「――どうだね」
よって来る看守に向い、その人はやっと舌を動かして、
「医者よんで下さい」
と要求した。
「化膿しちゃうわ。……歯ぐきと頬っぺたの肉がすっかり剥れちゃってるんだもの」
「……詰らんもの呑んだりするからえげねんだ」
「――医者よんで下さい。ね」
「話して見よう」
薄手な素足でこっちへ来て坐りながら、
「下剤かけるかしら」
やや心配気に訊いた。私も小声で、
「何のんだの」
「銀紙のかたまり。……私呑みゃしないってがんばってるんだけど」
第二房へ入れられた男の同志と昨夜十二時頃仕事をすましていざ寝ようとしているとこへ、ドカドカと四五人土足で侵入して来た。その女の同志はハッとして何かを口へ入れてしまったと見ると、彼等は一時に折り重り、殴る蹴る。間に、一人がステッキを口へ突込んで吐かせようと、我武者羅にこじ廻したのだそうだ。
「今市電が立ちかけてるのよ、残念だわ」
留置場の入口が開く毎に、立ってそっちの方を見た。
「きっと職場でも引っこぬきが始ってる」
市電では、一月に広尾の罷業を東交の篠田、山下等に売られてから全線納まらず「非常時」