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こくこく
刻々
宮本 百合子
「中央公論」1951(昭和26)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页
と云った。
「あのくらいの大物で、あんなに何も彼も清算するのは近来ないそうだ、びっくりしていたよ」
「…………」
六十日以上風呂にも入れず、むけて来る足の皮をチリ紙の上へ落しながら、悠然とかまえてることさと云う時、その主任の云ったことを焙るように胸に泛べているのであった。自分は、金のことを云わなければ半年経とうが帰さないと脅かされて、放ぽり込んで置かれるのであるが、その学生と自分の金の問題とが妙に連関しているようで、しかも心当りもなく、結局、どこの誰がどう清算しようと、知らない事は知らない事だと、腰を据えるしか仕方がないのであった。
女の同志は、
「本庁の奴、私を見て、なァんだもう来ていたのか! って、あきれてたわ」
この前は拘留があけると警察から真直ステーションへつれてゆかれ、汽車にのせられ、国元へ送り帰されたのだそうだ。鉄道病院の模範看護婦で、日本大学の夜学で勉強したことがある――。
「そこであんまりとんちんかんな社会学の講義をきかされたんで、妙だ、妙だと思ったのがこっちへ来る始りなのよ」
可笑しそうに笑いながら、
「自分で働いてりゃ、馬鹿だってその位気がつくわよ、ねエ」