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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

「パンと牛乳買って貰いなさいよ」

と云った。

「漬けてなら食べられるから」

「そうしようかしら――じゃ買って下さい」

看守は小机に頬杖をついたまま、

「きかなけりゃ駄目だ」

「今上で私につたえろと云ったんだから、いいんです」

「金あるのか」

「あるわ、上にあるわ」

物臭さそうに看守は肩から立ち上って、「小父さァん」と小使いを呼んだ。

三日ばかりで、組合の男の同志は月島署へまわされた。

看守が残った女の同志に、

「君ァ、鳩ぽっぽ(レポータア)かと思ってたらどうしてなかなか偉いんだそうじゃないか」

と云った。

「――鳩ぽっぽだわよ」

そして、濡手拭を頬に当てたまま、ふ、ふと静かに笑っている。

自分たちは、段々いろいろのことを話すようになった。

「――入って来たらまだあなたがいたんでびっくりしたわ、とっくに出たんだろうと思ってたのに……」

「仕様がないから悠然とかまえてることさ」

中川が金のことで自分を追及しはじめて間もなく、主任がこんなことを云った。

「ああ、そう云えばあなたの家でつかまった帝大生、ここにいる間は珍しい位確りしていたが到頭兜をぬいだそうだよ」

自分は冷淡に、

「ふーん」