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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

神田川河岸へ出たのである。それを渡ると両国である。

「よし」と鉄之進は呟いた。

「両国広小路へ出てやろう。名に負う盛場で人も多かろう。人にまぎれてマイてやろう」

なおもぐるぐる廻ったが、とうとう両国の広小路へ出た。

飢饉の折柄ではあったけれども、ここばかりは全く別世界で、見世物、小芝居、女相撲、ビッシリ軒を立て並べ、その間には水茶屋もある。飜めく暖簾に招きの声、ゾロゾロ通る人の足音、それに加えて三味線の音、太鼓の音などもきこえてくる。

「旨いぞうまいぞ、これならマケるぞ」

群集に紛れ込んだ鉄之進は、こう口の中で呟いたが、しかし何となく不安だったので、こっそり背後を振り返って見た。

いけないやっぱり従けて来ていた。しかもこれ迄の従け方とは違い、刀の柄へ手を掛けて、追い逼るように従けて来る。群集が四辺を領している、こういう場所で叩っ切ったら、かえって人目を眩ますことが出来る。――どうやら彼らはこんなように、考えて追い逼って来るようであった。

「これはいけない、危険は逼った。ここで切り合いをはじめたら、大勢の人を傷付けるだろう。と云ってああもハッキリと、殺意を現わして来る以上は、憎さも憎しだ、構うものか、一人二人叩っ切って逃げてやろう」