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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页
そうしてお互いに間隔を置き、連絡のない他人だよ――と云ったような様子をつくり、バラバラに別れたからである。
「怪しい」と鉄之進は呟いた。
「加賀屋の手代だと偽って、昨夜深川の佐賀町河岸で、うまうま俺をたぶらかし、柏屋へ連れ込んだ連中があったが、その連中の一味かも知れない。何と云ってもこの俺は、高価の品物を持っている。奪おうと狙っている連中が、いずれは幾組もあるだろう。加賀屋源右衛門へ渡す迄は、保存の責任が俺にある。つまらない連中に関係って、もしものことがあろうものなら、使命を全うすることが出来ぬ。……そうだ、あいつらをマイてやろう」
そこで鉄之進は足を早めた。
旅籠町の方へ曲がったのである。
そこで、チラリと振り返って見た。五六人の武士が従いて来る。
「これは不可ない」と南へ反れた。
出た所が森田町である。
でまたそこで振り返って見た。やはり武士達は従いて来る。そこで今度は西へ曲がった。平右衛門町へ出たのである。
また見返らざるを得なかった。いぜんとして武士は従いて来る。
「いよいよこの俺を尾行ているらしい。間違いはない、間違いはない」
そこでまた南へ横切った。