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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页
扇女ならこそ助けてくれたんだ。お礼をしなければならないなあ」
するとその時藪の中で、物の蠢く気勢がした。
「おや」と思って振り返って見たが、枝葉が繁っているために、隙かして見ることは出来なかった。
「さあこれからどうしたものだ?」
丁寧松は考え出した。
「よし来た、今度は方針を変えて、鮫島大学の方を探って見よう。旅籠屋の柏屋とも近いからなあ。かたがた都合がいいかも知れない。……が。一人じゃア不安心だなあ。……そうしてどっちみち夜が来なけりゃア駄目だ」
するとまたもや藪の中で、ゴソリと蠢く音がした。
「おかしいなあ」と振り向いた時、
「これは連雀町の親分で、変な所でお目にかかりますなあ」
藪から這い出した男があった。
「どいつだ手前は?」
「へい私で」
「よ、今朝方のお菰さんか」
「お金にお飯にお酒を戴き、今朝方は有難うございました」
襤褸を引っ張り杖を突っ張り、垢だらけの手足に髯ぼうぼうの顔、そういう乞食が現われた。
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「今まで藪の中にいたのかい?」
「ここが私の別荘で」
「いや豪勢な別荘だ」
「少し藪蚊は居りますがね」
「人間の藪蚊よりは我慢出来る」
「いや全くでございますよ」