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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

……」

「しかと左様か。偽りはござるまいな」

「何の偽り。……真実でござる」

まるで吟味でも受けているようだ。――浪之助はにわかに不快になり、自分の如何にも生地のないことに、腹立たしさを感じはしたが、蛇に魅入られた蛙とでも云おうか、陣十郎という男に見詰められていると、手も足も出ないような恐怖感に、身も魂も襲われるのであった。

女に血潮を充分に拭わせ、やがて陣十郎は悠々と、刀を鞘に納めたが、

「拙者貴殿に悪いことは申さぬ、深い因縁がないとあれば、いよいよもって幸いでござる、源女とも秋山要介とも今後決して関係つけなさるな」

「はあ。……しかし……それは……何故に。……」

「さようさ、拙者が好まぬ故」

「…………」

何という図太い我儘だろう。何という押強い要求だろう。――そうは思ったが浪之助は、それに反抗して否と云い切るだけの、力を持つことが出来なかった。

で、じっと黙っていた。

「わけても源女と関係なされては不可ない。……いかがでござる、よろしゅうござるか」

「…………」

「よろしい、承知なされたそうな。……念のため貴殿にお訊ねいたすが、貴殿、源女の歌う不思議な歌を、耳にしたことござるかな?」