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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

現在人を殺して置いて、本名を宣る膽の太さ、あらためて浪之助の怯えている心を、底の方から怯やかした。

「はあ」とばかり浪之助は云った。

それ以上は云うこともなく、そう云った声さえ顫えていた。

「……ソ、その者は? ……その死骸は?」

さすがにそれだけは浪之助も訊いた。

「拙者ただ今討ち果したものじゃ」

「はあ。……さようで……何の咎で?」

「裏切りいたした手下ゆえ」

「はあ」

「憎むべきは裏切り者。……言行一致せざる奴。……」

「はあ」

「失礼ながら貴殿のご姓名は?」

「ス、杉浪之助。……」

「杉浪之助殿。……お住居は?」

「小石川富坂町。……」

「源女の小屋で今日午後、お眼にかかったことご存知か?」

「サ、さよう。……存じ居ります」

「源女の部屋へ行かれましたな?」

「…………」

「貴殿と源女との関係は?」

「これと云って、何もござらぬ。……一年前に、ただちょっと……」

「さようか」と陣十郎は疑わしそうに、刀の切先のようにギラギラ光る、氷のように底冷たい眼を、じっと浪之助の顔へ注いだが、

「秋山要介殿源女の部屋へ、今日参って居られたが、貴殿と秋山殿との関係は?」

「何でもござらぬ、ただ今日、はじめてあそこでお逢いしたまでで。