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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

「あれをご覧、あそこへ行く武士を。……あ、いけない、曲がってしまった」

さよう、その時その一団は、行手にあった四辻を、左の方へ曲がってしまった。

「お兄様、何なのでございますか?」

「わしの眼違いかも知れないが、陣十郎に似た浪人らしい武士が……」

「まあ」と澄江は眼を据えた。

4

「通って行ったとおっしゃいますので?」

「博徒と博労らしい一団が、駕籠を護って通って行ったが、その中にその武士がまじっていたのだ」

「ではちょっとわたしが行って、陣十郎かそうでないかを……」

「待て待て」と立ち上る澄江を制し、主水は思慮深く考え考え、

「陣十郎も敵待つ身、油断があろうとは思われぬ。あべこべに其方の姿を見付け、悪剣を揮わぬとも限らない。……もし彼がまこと陣十郎としても、見受けたところ博徒の輩の、賭場防ぎの用心棒として、住み付いている身の上らしく、さすれば今日や明日の中に、この地を去るものとも思われない。……馬大尽とは何者か、先刻の一団は何者か、その辺りのことから十分に探って、その上で事に取りかかった方が、安全のように思われる」

こう云って澄江を動かさなかった。

夕食の膳の引かれた頃、番頭が挨拶に顔を出した。