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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

「ところで馬大尽の同勢の中に、浪人風の武士がいたが、あれは一体何者かな?」

「用心棒でございますよ、猪之松親分の賭場防ぎの」

「で、何という姓名の者か?」

「さあ何と申しますやら、ああいう浪人衆は一人や二人でなく、猪之松親分の手許などには、五人六人と居りまして、居たかと思うと行ってしまい、行ったかと思うと新しいのが来る。いつもいつも変わりますので」

知りたいと思った肝心のことが、これでは一向知れなかった。主水も澄江も失望したが、とにかく明朝宿を立ち、高萩へ行って猪之松親分を探り、さっきの武士が陣十郎か否か、確かめて見ようと決心した。

ちょうどこの夜のことであった。

高萩の猪之松と張り合っている、赤尾の林蔵は乾児の藤作や、杉浪之助と連れ立って、広谷ヶ原の賭場を抜け出し、野良路をかなり不機嫌そうに、上尾宿の方へ歩いていた。

思うように賭場に人が寄らず、自然テラの薄いのが、彼の不機嫌の原因であり、人寄りの悪いのは猪之松のためだと、そう思ってひどく不機嫌なのであった。

(これまで来てくれた客人さえ、どうやらこの頃は俺を見切って、猪之松の賭場へ行くらしい)

これが心外でならなかった。