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げきだん「わらうようま」

劇団「笑う妖魔」

山本 周五郎

「少年少女譚海」1938(昭和13)年夏期増刊号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,705 字 · 18 页

青空文庫

五郎よ、さっきの約束は取消す。

僕は彼等に発見された、万事休すだ。僕は証拠品と共にこの手紙を嚥む。そして拳銃へ実弾を填める。舞台の上で僕が射殺されれば、必ず警察で手入れをするだろう。その他にもう手段はない。おまえは頭が良いから、きっと死体の解剖に気づいてくれるだろう。それを神に祈る。お父さんに会って「許して下さい」と云って死ねないのが残念だ。――五郎、おまえから云って呉れ。

「兄さんはやくざでした。然し日本人として、最後は立派でした」と。

ゆき子は日東劇場の地下室にいる。早く救い出してやって呉れ。僕はあの世からみんなの仕合せを祈っているよ。一郎。

「父さん、――」

五郎は噎びあげながら手紙を父に渡した。そこへ解剖の済んだ死体が運ばれてきた――五郎はすぐに走り寄り、手帛を水に濡らして、扮装の白粉を静かに拭い落した。……ひと拭き毎に現われてくる兄の顔、なつかしい兄の顔が、涙に曇って、幻の如く霞む。

「――五郎」

市造氏が近よってきた。

「父さん」

五郎は振返って涙と共に云った。

「見てあげて下さい。兄さんです。兄さんは立派に罪を償いました。よく死んだと……褒めてあげて下さい」