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げきだん「わらうようま」

劇団「笑う妖魔」

山本 周五郎

「少年少女譚海」1938(昭和13)年夏期増刊号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,705 字 · 18 页

青空文庫

その翌日、一郎は学校で橋本に会った。電話の悪戯が彼であるなら、必ず顔つきに出ている筈である。しかし橋本の様子には些しも変ったところがなく、訊いてみても電話などかけはしないということであった。

――おかしいな、すると誰か真実に用事があったのかしら、然しそれにしても名前を云わないというのは変だ。

一郎は急に何だか気懸りになってきた。

ところがその日の午後のことである。

一郎の妹で蛍雪女学校三年のゆき子が、学校から家へ帰ってきて間もなく、書生の中野が部屋へ走ってきて、

「お嬢さん、お電話です」

と知らせた。

「有難う、誰から?……」

「名前を仰有いません、男の声です」

「男の声? ――厭あね」

そう云いながらも、とにかく階下へ降りていった。受話器を手にして、

「もしもし、あたくしゆき子ですが」

と答えた。

相手は何を云ったか? ゆき子はさっと顔色を変えた。受話器を持つ手が眼に見えるほど震えている。

「ええ、――ええ、……分りました」

しどろもどろの声で、相手の話に返辞をしていたが、

「すぐ行きます」

と云って受話器をかけると、父の部屋の方を気遣いながらそっと二階へ戻った。