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けしょうのもの
化生のもの
豊島 与志雄
「世界」1950(昭和25)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,086 字 · 27 页
」
「だって、今更、取り消すわけにもまいりませんでしょう。」
「だからさ、わたしがまた一骨折りしなければならないかと思って……。」
美枝子は眼を足先に落した。
「ほおっといて、大丈夫だと思いますの。もう噂はこりごりですもの。それに、わたくしも、どうせ覚悟の上のことですから。」
恒子はまだ不安心らしく、美枝子の顔を覗き込んだ。それから、気を変えるように立ち上った。
「あまり心配させないで下さいよ。」
二人は黙って歩き出した。
板倉邸でティー・パーティーが催された日、而も真昼間、妙な事件が起った。
板倉邸は広い敷地で、コンクリートの塀に取り巻かれていた。その塀から出外れてしばらく行くと、左手が五メートルばかりの低い崖になっており、崖の下に小さな泥池があった。そのへん、崖の下は一面、戦災の焼け跡で小さな人家がぽつぽつ建ってるきりで、雑草の荒地と菜園とが入り交っていた。泥池は湧き水だが、赤く濁って、もう子供たちもそこでは遊ばず、木片を浮べて放置されたままだった。その泥池の崖上に、松が数本、ひょろひょろと植っていた。
その松の木立のところで、突然、二人の男が格闘を始めたのである。