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きたのふゆ

北の冬

小川 未明

「新小説」1908(明治41)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,166 字 · 11 页

青空文庫

「明日は天気だよ。」と母が後からいいなさる。私は頭をあげて、目深に被っていた、三角帽子を除けて野原の景色を眺めた。灰色の雪が光りを帯んで、西の山々は黒くなって、日が入りかかっている。東を見ても、南を見ても尚更北を見ても暗くて、鬱陶しい空には飛ぶ烏の影も見えなかった。私は眤と空を見ていると自から瞼が閉じて、心の曇りを感じた。ただ何の気なしに西の空を見る。山又山に山は迫って重っている。日はその又山と西の奈落の底に沈むのであろう。厭らしい黄色な幅広い一筋の雲が、くっきりと灰色の空に浮き出ていた。――ただその黄色な雲の帯が長く横っているのを見たばかりで、後は日の落つる処も見えない。――もう私は、日が沈んでしまった後でないかと思ったが、これを母に聞いて見る気にもならぬ程、心が鬱いでいる。

「あの、雲ご覧、帯のようだこと。」と母はいって指さす。

全く灰色の、暗い空の幅広の一筋の雲が一直線を引いたようになっているのは気味のよいものでない。

私はただ、滅多に斯様景色は見られないと思った。……ただ、とぼとぼと母と二人で雪道を歩いていると、遠くの遠くで、ど、ど、ど――という物凄い音が聞える。