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きたのふゆ
北の冬
小川 未明
「新小説」1908(明治41)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,166 字 · 11 页
私と母はどうやって、彼の男を避けようと細い雪道の上でまごまごやっていると、男の方で止って、一足雪の中に埋って、私共の通るのを待ってくれた。母は、
「有難うご座います。」
といってその前を急いだ。私も急ぎ足で母についてその前を通った。この時ぎらぎらと眼が眩むように鏡が光った。曲玉がじゃらじゃらと鳴る。男は口の中に籠り勝ちな、力の入った声で、
「六根清浄々々」といった。
私はその沈鬱な声がいつまでも忘れられない。晩方の寒い天気に、男の鼻息が白く凍って見えた。私も母の真似をして頭を下げてその前を通ったのである。男は大様に会釈したが、その儘私共が歩いて来た道の方へ行ってしまった。私はまた急いで母の先になって、幾たびも幾たびも振向いて見た。母も少しばかり歩いてから振向いた。その男の白装束の後には脊一ぱいに何やら太い文字が書かれてあった。見送っているとその姿はだんだん遠くなってしまった。
「お母さん、あれは何だろうかね。」と聞いた。
「あれかえ、行者だよ。」と、母はいった。
「行者って何?……」
「旅をして歩く信者だよ。」と母がいわれた。
メランコリーな空は暗い。雪の上は灰色に凍って、見渡すかぎり、寂莫としている。