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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

「この見っともない葉ののこぎりの様な線が私のあんなきれいな香り高い絵巻を破いてしまったんだ! 早く土になってしまって居ればこんな事にはならないんじゃあないか」

千世子はその葉をやけにやぶいて下駄で土の中にのめりこむまでふみにじった。

だまって見て居たHはようやく千世子の怒ったわけがわかった。

源さんはHのわきに立って我ままな女王がおつきをいじめちらす様な澄んだ青いかおをして足元をみつめて居る千世子の様子をきづかわしそうに眺めた。三人とも一言も口をきかなかった。そのだんまりの中に神経ばかりが魔物の様にすばやくお互の間を走り廻って居た。

だれが歩き出すともなく三人は歩き出した。

源さんはHをようやっとつかまえたと云う様につづけざまに何かしゃべり出した。

千世子の腹立たしさは中々とけなかったけれ共二人の話には気をとられて居た。

Hは、千世子の先にきかされた事のある落し話でない様な落しばなしをして居た。千世子の口元はついついゆるみそうになって来た。さっきあんなに怒っておいてすぐ仲間入りさせてもらうと云う事は何となく権威をそこねる様でけぎらいの千世子は自分が先に頭を下げる事は出来なかった。