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ちよじのおどろき

千代次の驚き

豊島 与志雄

「文学界」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 页

青空文庫

つけねらわれてるといっても、前のように云えば、毎晩のように聞えますが、実は五日に一度とか、七日に一度とかで、そう始終のことじゃありませんし、村尾さんと逢ってると、そんなことを気にするのが、ばからしくも思えるのでした。がそればかりでなく、もっと何か、話しにくいものがありました。お話してどう思われようと、あたしの方はかまいませんが、それが村尾さんの気持にどうひびくか、気遣われてなりませんでした。

それというのも、その頃、村尾さんの様子が少し変だったせいもあります。何だかこう冷たいよそよそしい態度をなすって、早く依田さんの世話になったらどうだとか、よい旦那を見つけたらどうだとか、僕がこれほど力を入れてやってるのにまだ売る気なのかなどと、それもただのやきもちとちがって、へんに冷く突き刺すように仰言るんです。あたしいい加減にあしらって、旦那なんか面倒くさくていやだの――それもあたしとしては本当のことだし、また、インチキな稼ぎ方なんかちっともしないと――それもあたしの気持からすれば本当のことだし、そんな風に答えますと、こんどは村尾さん、あたしの顔を見て、にこにこ笑っていらっしゃるんでしょう。