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ちよじのおどろき
千代次の驚き
豊島 与志雄
「文学界」1934(昭和9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 页
それも、ひとをばかにしたような、そのくせ可愛いいといったような、そういう笑いかたなんです。そんなのが実はあたしの性に合うので、いい気になってると、ふいに、考えこんでおしまいなさる。かと思うと、これからどこかへ飲みにいこう、大いに愉快にやろうと、そうなんです。そして酔っぱらうと、いやにつっかかってきたり、また、何でもないのに、何も云わないのに、じっと眼を据えて、涙をこぼしていらっしゃる。わけをたずねると、いやに不機嫌で、怒っていらっしゃるようなんです。
落付かない、いらいらした、今にも破裂しそうなものが、あたしにも伝わってきて、じりじりと、あぶない瀬戸際におしつめられてるような気持でした。そんなこと、あたしには初めてなんです。ほかの人はどうかしらと思って、見廻してみると、一流のちゃんとしたねえさんで、旦那のほかに二三人の岡惚をもってるのがあったり、お酌あがりの娘さんで、ちょいちょい浮気をしてるのがあったり、自由な身でもないのに、一人のひとを守ってるのがあったり、さまざまでいて、そしてみんな、朗かに落付いてるようでした。こんなに困って苦しんでるのは、あたし一人なのかしら。