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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

「ええ。でも田川より田鶴子さんの方がずっと探偵事件的に魅力があるんですものね、仕方がありませんわ」

「冗談じゃないですよ、春部さん。私はあなたの御依頼によって田川氏の行方を突き停めようとしてこそあれ、あの今様弁天さまの魅力に擒になっているわけじゃありませんよ」

春部は、何とも応えなかった。と、ゆるやかながら一つの峠を越えて、正面の眼界が一変した。左手の方が一面に低い雑木林となり谷を作りながら向こうへ盛りあがり、正面の切り立ったような山の裾にぶつかっているが、その山の麓に、奇妙な形の洋館が、まわりに刑務所のような厳しい塀をめぐらせて、どきつい景観となっていた。朱色の煉瓦を積んだ古風な城塞のような建物であった。そして外廓は何の必要があってかふしぎにも曲面ばかりを持っていて、平面が殆んど見当らない。なんのこと長い腸詰を束にして直立させたような形だった。永く見詰めていると顔が赭くなるような、そしてふと急に胸がわるくなって嘔吐を催し始めるような、実に妙な感じのする建物だった。……二人の足は竦み、そして二人はしばらくはものもいわず、その煉瓦館に見入っていた。それは間違いなく、千早館だった。