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ちはやかんのめいろ
千早館の迷路
海野 十三
「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页
それは何でも古神が、名の方も田鶴子ではなしに、田津子に改めろといったらしいんですが、あの女はそれを頑として応じないで田鶴子を通しているといっていました。それは田鶴子の方がずっと上品だからという理由に基くんだそうです」
「まあ、面白いこと」
二人は、そこで声を合わせて朗らかに笑った。
だが、二人は間違っていたのだ。それが笑うべき事柄でなかったことは、やがて二人にはっきりと、そして深刻に了解されるであろう。
しかもだ、カズ子の名前も、彼女の愛人の田川の苗字も既に用意せられた恐ろしい舞台の上でスポットライトを浴びていたことに同時に気がつくであろう。
5
雑木林がようやく切れて、帆村荘六と春部カズ子はひょっくりと千早館の塀の前へ出た。
帆村は春部の方を振返った。春部は千早館の高い屋根に釘づけになっていた眼をかえして、帆村の方を見た。彼女の円らな眼の奥には強い決意の色が閃いていた。
散歩者のような調子で、二人は塀の前を静かに通って行った。だが二人は、その英国の古城風の煉瓦の塀が三ヶ所において崩れているのを、素知らぬ顔で見て過ぎた。それに反して、正面の厳めしい鉄門も、裏口にある二つの潜り門も共に損傷がなく、ぴったりと閉ざされていて、一部には錆が出ているのを発見した。