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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

だから彼としては、千早館の入口を見付けた今、急いで千早館へ駈付けたい気持であった。しかし春部の思いつめた顔を見ると、池の方を後廻しにともいえなくなって、帆村は遂に、池を先に調べることにした。

「先生。ほら、あの水面に、まだいくつも浮いていますのよ。お分りになります」

春部は、さっき使った竹竿を再び手にして水面を指す。なるほど、こまかく千切った布片のようなものが浮いている。

(もしあれが、本当に田川の服の裏地だったとしたら、どういうことになるのか)

帆村は、それが極めて稀な場合だと思いながらも、考えてみないでいられなかった。そのとき春部はその布片を更に採取するために竹竿を身構えた。

「あ、お待ちなさい」

帆村が突然大きな声を発した。春部は愕いて帆村の方を振返った。

「……よくごらんなさい。あそこを。あなたのいった布片は、静かに池の底から浮き上がって来るのですよ。よく見てごらんなさい」

なるほど帆村のいうとおりだった。毛のような黒いやつが、灰白色の水の中から静かに水面へ浮び上って来て、やがて静止するのであった。春部の愕きは大きかった。

「見えますわ。でも、どうしてでしょうか。